ABABA’s ノート

旅と鉄道、岬と灯台、読書ときどき映画あるいは美術に関するブログです。

フリーマガジン『灯台どうだい?』

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(写真1 『灯台どうだい?』直近6号分)
灯台マニアの崖っぷちマガジン
 フリーマガジンである。フリーマガジンといえば、フリーペーパーも含め広告料収入でまかない無料配布しているものが大半だが、このマガジンの特徴は広告を一切取らず無料配布を貫いていること。各地の参観灯台や海事系博物館などに置いているようだが、サポーターになると、千円の年会費で郵送してくれるサービスがある。
 A4判12ページ。年4回刊。フルカラー。表紙に〝灯台マニアがおくる崖っぷちマガジン〟とあるように、灯台の魅力が満載されている。しかも、灯台に寄せる愛情がひしひしと伝わってきて大変好ましい。
 内容も濃くて、特集ページには、海図のこと、映画になった灯台、国登録有形文化財灯台、孤島の灯台などとあって魅力的な企画が並んでいるし、海外の灯台の紹介や灯台紀行などとあり、小冊子ながら読み応えがある。
 編集・発行は不動まゆうさん。私は不動さんが書いた『灯台はそそる』を読んで、このフリーマガジンの存在を知り、早速サポーターになった。同書の時にもそうだったが、不動さんの灯台に関する該博な知識には感心するばかりだ。
 最近号で16号、つまり刊行を開始して4年になるということだが、小冊子とはいえ、これほどのものをフリーマガジンとして刊行が続けられているということはもはや奇跡に近いのではないか、そのようにも思えたのだった。

ユーカリが丘線

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(写真1 走行中のユーカリが丘線AGT列車
ニュータウンを走るAGT路線
 ユーカリが丘線は、千葉県佐倉市にあるAGT(案内軌条式鉄道)路線。新交通システムの一種だが、モノレールとは違う。不動産会社の山万の運営で、同社が開発したニュータウン内を縫うように走っている。異業種からの鉄道事業への参入は珍しく、第三セクターはともかく純民間企業経営のAGTとしては日本唯一のものである。

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(写真2 ユーカリが丘駅に停車中の列車。列車名には愛称のコアラ)
 11月10日、ユーカリが丘駅。同名のJR駅と接続している。片側1線のホーム。3階に相当する。3両連接の車両。若い女性の乗務員が乗務しており、無人運転ではないようだ。AGTでは無人運転が多いから、かえって有人は珍しい。
 14時41分の発車。地区センターを経て公園。ここは1面2線のホーム。沿線には高層住宅が多い。女子大、中学校、井野と停車していく。ところどころ宅地が途切れ畑地となっている。
 続いて公園で、一周してきたようだ。ここからは再び地区センターを経てユーカリが丘へと戻る。所要10数分。
 路線の形は、例えがよくないが、絞首刑の首輪に似ていなくもない。というよりは、ラケット形と表現した方がスマートか。
 全線一方通行で、ユーカリが丘-公園間だけが双方向で、公園から公園に至る反時計回りの区間が環状である。だから、厳密に言えば、ユーカリが丘が起点で、終点は公園ということになる。
 重複部分を除く全線が4.1キロ。1982年11月2日の開業。
 なお、細かくなるが、案内軌条に中央案内式を採用しており、日本のAGTとしては唯一のものである。

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(写真3 JR駅前から見たユーカリが丘駅。ホームは3階にある)

東成田線/芝山鉄道線

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(写真1 芝山千代田駅ホームから見た成田空港)
日本一短い鉄道会社
 東成田線は、京成成田駅と東成田駅を結ぶ京成電鉄の鉄道路線。また、芝山鉄道線は、東成田線との共用駅である東成田駅と芝山千代田駅を結ぶ芝山鉄道の鉄道路線で、両線は相互直通運転されており、ほぼ一体となった運行がなされている。なお、芝山鉄道は普通鉄道としては保有する路線が日本一短い鉄道会社である。

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(写真2 京成成田駅。東成田線としては起点駅である)
 11月10日。京成成田駅。京成線はその名の通り東京と成田を結ぶ路線として発展してきたもので、京成成田駅は成田山参詣への玄関口であり、近年では都心と成田空港を結ぶ路線としての位置づけも大きい。広場に面してJR成田駅と近接している。
 京成成田駅は3面5線のホーム。東成田線は基本的には2番線からの発着。芝山千代田からの列車が到着しそのまま折り返し運転となった。
 11時12分の発車。6両編成。芝山千代田行きで、列車の行き先表示には「(東成田)芝山」と表示が出ていた。平日の日中のせいか、乗客はちらほらする程度。発車して数分するとトンネルが見えてきてその直前で成田空港へ向かう京成本線が左に分岐していった。このあたり駒井野信号場と呼ばれるが、京成成田駅との間は本線と東成田線との重複区間である。
 トンネルに入ってすぐに東成田到着。現在のようにターミナルまで延伸されるまではこの駅がかつての京成本線の終着駅であり成田空港駅だった。現在は旅行者で利用する者がいるかどうかはわからないが、ここから第二ターミナルまでは地下通路で500メートルほどである。2面4線のホームがあるが、1面2線は使われていないようだった。
 東成田線としては、京成成田-東成田間は起点終点だけの区間で、全線7.1キロの短い路線。しかも、本線との重複区間である京成成田-駒井野信号場間を引くとわずか1.1キロに過ぎない。
 東成田駅は東成田線と芝山鉄道線の共用駅だが、列車は両線を通しで運転しており、運転士の交代なども行われていなかった。また、芝山鉄道線に入ると単線になった。
 東成田を出た芝山鉄道線は次の芝山千代田駅が終着駅。到着直前に地上に出たが、右窓には成田空港の施設が広がっていて、多くの航空機が発着したり駐機したりしていた。
 わずか一駅だけの区間ということになるが、全線2.2キロに過ぎず、普通鉄道の鉄道会社の中では、日本一保有する路線が短い鉄道である。
 結局、下車したのはわずかに4人だけ。駅に降り立つと、駅のすぐ右手は高いフェンスで囲まれた空港施設で、ちょっとのぞこうとしたが、すぐさま警備員に注意された。
 そう言えば、この路線に乗るのはこれが二度目だが、随分昔になるが初めての折には、列車にも警察官が乗務していて、厳重な警戒だった。このたびはその警察官の乗務はなかったから、成田問題も緩やかになったのだろう。
 駅前には、大きな埴輪があったが、ここは芝山古墳に近く、古墳博物館などもあるところ。弥生時代の人たちはとんでもないものができたものだと地中で驚いているのではないかと思われた。
 そもそも芝山鉄道は、空港建設によって分断されることになる住民の救済措置として敷設されることになったもので、2002年10月27日東成田線を延長する形で開業したもの。
 列車は、日中は京成成田との往復運転ばかりで、朝夕の時間帯には京成本線を通じて上野行きや都営地下鉄への乗り入れ列車も数本だけだが運転されている。

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(写真3 芝山鉄道芝山千代田駅)

ミカ・タジマの個展

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(写真1 ギャラリーの様子。ガラス越しに撮影した)
「TOUCHLESS」
 ミカ・タジマの個展「TOUCHLESS」が東神田のTARO NASUというギャラリーで開かれている。
 ミカ・タジマ(田島美加)は、1975年ロサンゼルス生まれ、ニューヨーク在住のアーティスト。
 会場は二つの展示室に別れていて、一つには鮮やかな色彩のパネルが6枚。これが不思議な印象で、初めどういう手法か計りかねた。カンバスに描いたようにも思えたが、油絵でもなさそうだ。
 係の女性に伺ったら、シャカード織なのだという。つまり織物の一種ということだが、なるほど子細に観察すると、それらしくもある。綿のようだが、それにしても糸にしても多彩な色だ。
 そもそもがシャカード織の特色らしいが、タジマは緻密に設計した電子データをコンピュータ制御した織機に載せたということなのだろうか。昔でいう、パンチカードを使って柄を織っていくのがシャカード織らしいからそれに近いのかも知れない。あるいはアコースティックらしいから響き合って思わぬ波形が生まれているものなのかも知れない。まったくの当てずっぽうだが。
 手法はともかく、作品は微妙な味わいがあってとても美しい。いたずらに強い押しつけがましさがなくて、見ていて飽きない。前衛的な現代美術にはまったくの門外漢だが、この作品なら自宅に架けてみたいと思わせられた。
 タジマの作品を見るのはこれが二度目。初めは4年前だったか、六本木の森美術館で開催されていたアウト・オブ・ダウト展という現代アートの展覧会だった。その時も、シルクスクリーンや色鮮やかなアクリル板を駆使して壁面いっぱいに流れるように作品が連なっていて、不思議な美しさを醸し出していた。
 新しい材料を発掘し、新しい技術を開発するというのはあるいはタジマのやり方なのかも知れないとも思ったのだった。見当違いかも知れないが。
 一方、もう一つの展示室には、木彫の不思議なオブジェ。胴体を締め付ける拘束具に似ていないこともないが、いずれにしてもこの作品は私には理解の及ぶところではなかった。
 実は、タジマさんは私の友人の娘さんで、お母さんもアメリカ在住の著名な地球物理学者だが、才気煥発ぶりは親子で似たものらしい。母子ともにきらきらした才能がまぶしいほどだが、ミカさんの作品に科学の色彩が感じられるのはそういうこともあるのかと勝手なことを思っていた。

CIW検査業協会創立35周年

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(写真1 記念式典の様子)
不断の倫理活動に特徴
 一般社団法人CIW検査業協会の創立35周年記念式典が11月22日、浜松町東京會舘で盛大に開催された。
 CIW検査業協会とは、日本溶接協会が実施するCIW認定検査事業者の集まりで、業界の地位向上や技術革新の推進などに邁進しているほか、厳しい倫理規定を設けて検査の第三者性、透明性の確保に自ら積極的に取り組んでいるのが特徴で、検査会社の信頼性確保に大きな役割を果てしている。
 式典では、逸見俊一会長が「あっという間の35年だった。倫理活動を繰り返し重点的に行ってきたが、メンテナンス元年といわれる今こそ我々の責務は増している」と挨拶。
 また、来賓の祝辞に続いて行われた功績者表彰では、協会事業に貢献したとして5氏が表彰されたが、この中には不肖馬場信も含まれていて、逸見会長から感謝状が贈られた。広報活動に貢献したというようなことだったが、酒を飲んで遊んでいるばかりのようなことだったからかえって恐縮だった。しかも、受賞者を代表し謝辞を述べる機会まで頂戴し重ねて恐縮した。

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(写真2 受賞者を代表し謝辞を述べる馬場信)
 引き続き行われた祝賀会には、数多くの関係者が出席していて、日頃疎遠になっている方々が多かったから大いに盛り上がった。
 なお、祝賀会には斉藤鉄夫衆議院議員も出席して祝辞を述べた。斉藤代議士は、自身が東工大から清水建設へと非破壊検査工学の研究者だったこともあって古くからCIWとの関係は深く、祝辞にも我が事のように温かい気持ちがこもっていた。

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(写真3 祝賀会の様子)

石川啄木『一握の砂』

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近藤典彦編による定本
 久しぶりに『一握の砂』を手に取った。かつては繰り返し読んでそらんじている歌も少なくなかった。
 『一握の砂』は、啄木24歳の折に編んだ歌集で、啄木にとって初めての歌集だった。以来、どれほどの出版社から刊行され版を重ねてきたものか。日本の歌集でおそらく今日に至るももっともポピュラーなものであろう。
 本書の編者近藤典彦氏は啄木研究の第一人者のようで、本書にはその研究成果がふんだんに盛り込まれている。『一握の砂』の定本だというので私も手に取ったという次第。
 まず、ページを開いてすぐに気がつくことは、文庫1ページに2首、つまり見開きに4首が収められていること。これは、啄木が1910年に東雲堂書店から上梓したときの体裁と同じなそうで、これが実に読みやすい。私の書棚には幾種かの『一握の砂』があるが、例えば、岩波の啄木全集(新書版)には、1ページに8首も割り付けられていて、はなはだ読みにくい。
 本書を手にとって驚いたのだが、1首1首を味わうように読み進むに適している。しかも、編者は声に出して朗読することを勧めており、「一行ごとに、歌と行分けが要求する小休止を置きながら、味読して下さい」と述べていて、なるほどやってみるとそれは一段と味わい深いようだった。
 ここに収められている歌のことはさておくと、もっとも感心したのは編集のきめ細かさだった。
 1ページ2首にすること自体がページが増えて制作費がかさむことだが、そのことをまずはいとわず、各ページに脚注を付け、巻末に補注を集めている。また、各首ごとにナンバリングを施し、これによって補注との連動を容易にしている。さらに、巻末には索引まで付いている丁寧さである。
 なお、やはり巻末には、編者自身による解説が付されているが、これは編者の啄木研究の集大成が凝縮されたもののように思われた。これぞまさしく本書は『一握の砂』の定本と言えるものであろう。
 本書を手に取ると文庫330ページにしてずしりとした重みが感じられる。用紙をあえて厚みのあるものを使用したからのようで、このことも近年の出版事情では敬遠されがちのことだが、『一握の砂』の風合いを出すためには最善のことだったのであろうと理解できた。
 版元は桜出版。岩手県紫波町にある小出版だが、この出版社はこれまでも啄木関係の出版を手がけてきており、本書の出来栄えを見る限り並々ならぬ情熱が感じられたし、いい仕事をしたものだ。このことに感心した。
 また、本書カバーには、不思議な味わいの絵が載せられているのだが、カバー絵は三浦千波画伯だということである。
(桜出版刊)

森知英ピアノリサイタルで熱演

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(写真1 演奏を終えてロビーに出てきた森知英さん)
Russian Romance
 11月18日東京オペラシティリサイタルホールで開催された。
 森知英はそろそろベテランの域に入ってきた人気のピアニスト。この頃では室内楽なども手がけるほか、音楽コンクールの審査も行っているなど幅広い活動が注目されている。ベートーヴェン国際ピアノコンクール(ウィーンで4年に1度開催)第4席入賞、ショパン国際ピアノコンクール(ポーランドで5年に1度開催)でデュプロマなどと輝かしい実績を有する。岩手県出身、東京藝大卒。
 ここ十数年来森さんのリサイタルには毎年足を運んでいるが、今年はRussian Romanceという副題を付けて、ロシア人の作曲家の作品を特集していた。昨年は三大B(バッハ、ブラームス、ベートーヴェン)の名品を披露していたし、年々領域を広げかつ深くさせている。
 初めはチャイコフスキーの「四季」。もとよりロシアを代表する大作曲家だが、これはロシアの1年の風物を各月ごとにピアノ曲に仕立てた作品集。12の性格的描写という副題があるらしい。
 10月秋の歌、11月トロイカ、12月クリスマスの3曲を弾いたが、森さんの演奏はそれぞれの季節感を味合わせる演奏となっていた。この中では私にはやはり馴染み深い11月トロイカが情景を思い描けるようで良かった。
 続いてブルーメンフェルトの「左手のための練習曲」。ウクライナ出身の作曲家、ピアニストとして知られるが、繊細な美しさが感じられたし、下を向いていたら片手だけの演奏とは思われない素晴らしい演奏で、森さんのチャレンジには感心した。
 次いでスクリャービンの「幻想曲ロ短調作品28」。モスクワ出身の作曲家でありピアニスト。森さんの演奏は起伏に富んだ内容をきちんと表現していて大きな構想が感じられた。
 最後に4人目はラフマニノフの「前奏曲」。チャイコフスキーを熱烈に崇拝していたことで知られるが、この日は8つの作品が演奏された。このうち、作品3-2が有名だが、私には作品32-5が良かった。澄み切ったシンプルな美しさが際立つ曲といわれるが、実際、美しくてうっとりするようだった。
 チャイコフスキーはともかく、ブルーメンフェルト、スクリャービン、ラフマニノフの三人は作曲家でありピアニスト。そういうことでピアノ曲としての完成度も高いように感じられたし、森さんの演奏はさすがに手練れたものだったが、全般にどちらかといえば好事家好みのリサイタルだった。